⒈ 移民のグローバル化
ヨーロッパ連合(EU)、欧州委員会の統計局であるユーロスタット(Eurostat)によれば、2022年のスウェーデンの人口 1,050 万人のうち、210万人が海外で生まれであり、その割合は スウェーデン人口の約20%を占めています。
またこれは、国の人口の約50%が外国生まれというルクセンブルクの他、マルタ、キプロス、オーストリアに次いでヨーロッパでは4番目に「外国生まれの移民」が多い国であり、5番目がドイツというように、スウェーデンはヨーロッパでも最も移民の多い国の一つであることを示しています。
ところで、日本国際交流センター(JCIE)と特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)による最近の調査では、2022年6月時点で、日本に暮らす在留外国人数が、茨城県の人口と同規模(約296万人)いることを「知らなかった」という回答が9割以上(91%)を占めたということです。
つまり、日本ではまだまだ「在留外国人」に関する認識が低いということでしょう。
しかし、最近は日本でも、在留外国人や外国人労働者、さらには入国管理局や不法滞在者などという、観光や研究あるいは外国企業での就業などの目的以外に日本に来て、長期的な滞在あるいは居住を希望する外国人に関するニュースが話題になるようになってきました。
国際的にも、特に先進国の少子高齢社会や人口減少、さらに社会経済の衰退や労働者不足などの問題がグローバル化している現在においては、日本もここにきて、ヨーロッパやアメリカなどの社会と同じように、外国人労働者や移民などの課題が顕在化してきたのではないでしょうか。
⒉ 在留外国人と移民、そして難民の定義
さて、まずは…ですが、
実は、この「在留外国人」にしろ「移民」にしろ、これらの概念ははっきりしているようで、実際には国連をはじめ、世界の国々の間でもその定義はまちまちです。
その理由は、それぞれの国によって、そこに住んでいる外国人や移民の状況また歴史的背景、それに対する国の政策が少しずつ違うからです。
一般的には:
外国人とは、ある国の市民権を持たない国籍を持つ人々のことを指します。
その訪問の目的は、観光や学術研究、仕事などで、他国に一時的な滞在をしている人々を指します。
外国人に対して、国によってはビザの取得を必要としない国もあれば、短期滞在でもビザを取得する必要がある国もあります。
通常は、滞在期間が制限されており、長期的な居住権を持つわけではありません。
また移民とは:
ある国から別の国に永住するために移動する人々を指します。
そのような人たちは通常、結婚、家族の統合、雇用機会、難民としての要件を満たすなど様々な要因によって移住をし、往々にして一時的な滞在を目的としたビザを取得するのではなく、その国で長期的な滞在や定住、または永住権や市民権を得ることを目指して移住の手続きを進めます。
つまり、外国人とはある国に一時的に滞在するが国籍を持たない人々を指し、一方で移民はある国から別の国に永住するか、長期的に生活をするために移動する人々を指します。
さらに移民のうち、紛争や迫害など自発的でない理由で移動を強いられる人々を、難民や国内避難民と呼びます。
難民とは国境を越えて移動した人、また国内避難民とは国境を越えず居住地と同じ国の中で移動した人を指します。
つまり難民と移民は別個のものではなく、移民の中の一部の人々を難民と呼ぶわけです。
(注:国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン)
さて、日本では、「在留外国人」とはどのような人たちなのでしょうか?
法務省は、「出入国管理及び難民認定法」上の在留資格をもって、三カ月以上日本に在留する外国人「中長期在留者及び特別永住者」を「在留外国人」としています。
法律上は細かい規定がありますが、簡単に言うと…
在留外国人とは、「日本国籍を持っていない人で、3ヶ月以上の在留期間の在留資格を持っている人」のことだそうです。
つまり、通常の観光ビザで日本に来ている旅行者等はこれには当てはまりません。
また、日本の国籍を取得すれば、外見上や出身国に関わらず、法律的には外国人とは呼ばないということです。
では移民との違いは、産経新聞によると…
「日本政府は「移民」の明確な定義を持たないが、一般的に当初から永住・日本国籍取得を前提として新たに来日する外国人を指す。
日本国籍を持たずに永住している人は含まない。
また、数年間の出稼ぎ目的で就労滞在する人は、「外国人労働者」として使い分けている。」
ということです。
つまり、日本に永住している外国人でも、日本国籍を持っていない場合には「移民」ではなく、あくまでも「在留日本人」あるいは「外国人労働者」ということになります。
次に、ヨーロッパでの状況を見てみましょう。
⒊ ヨーロッパの「シェンゲン協定」
現在ヨーロッパ諸国間では、2015年12月時点で26カ国が締結した、互いに出入国審査なしに自由に国境を越えることを認める協定「シェンゲン協定」というものがあります。
EU加盟国では、フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・スペイン・ギリシャ・オーストリア・スウェーデンをはじめ、多くの国がシェンゲン協定に加盟しています。
EU非加盟国の中で協定に加盟しているのは、スイス・ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインです。
EU加盟国のアイルランドは、協定の適用除外を受けています。
また、EUを離脱したイギリスも適用除外です。
EU加盟国で協定を締結していない国はルーマニア・ブルガリア・キプロスで、クロアチアは2023年1月に加盟が決定しています。
これにより、スウェーデンの移民局では、これらEU(ヨーロッパ連合)のシェンゲン協定加盟国の国民に対して、次のようにメッセージを送っています。
「EU/EEA諸国の国民は、スウェーデン国内で居住許可なしで働き、学び、住むこと、また自分のビジネスを始めて経営する権利があります。
EU/EEA諸国の国民が居住許可なしでスウェーデンに滞在する権利は、「居住権」と呼ばれます。
例えば、あなたが従業員、自営業、学生である場合、または生計を立てるのに十分な資金がある場合、あなたには居住権があります。
スウェーデンに居住権がある場合は、スウェーデン移民局に連絡する必要はありません。」
(スウェーデン移民局のホームページより抜粋)
つまり、これらのシェンゲン協定を共有するヨーロッパ諸国からは、スウェーデンでの滞在期間や就業許可などという制限がなく、生活できる条件さえ整えば自由に来て住むことが出来るということです。
一方で、これらヨーロッパ諸国以外の国からの渡航者に対しては、通常は3ヶ月間の観光ビザの有効期間が過ぎると滞在許可証、また仕事を行う場合には労働許可証が必要となります。
これにより、シェンゲン協定を共有しない国、あるいはヨーロッパ以外の国から入国した外国人に対しては、滞在期間が過ぎて滞在すると不法滞在となり、また滞在期間の延長や居住を申請する場合には移民局において審査をして、不許可の場合は国外退去の処分を受けることになります。
⒋ スウェーデンの移民の定義
スウェーデン政府の公式サイトによると、
「一般的な用語では、移民という用語は、スウェーデンに住む外国出身者、特に第二次世界大戦後スウェーデンに来た人々を指します。」
と書かれています。
ここでは、「どういう目的で入国したか?」については書かれていません。
また、この公式サイトには、
「移民という用語は、実際に移民した人、つまり他国からスウェーデンに移住し、ここで在住登録した人に対してのみ使用されるべきです。」
とも書かれています。
つまり、公式機関でも「移民」という言葉の定義は特になく、様々な関連する公式な部門において「移民」という言葉を使う概念についての指標を述べているだけですが、共通しているところは、スウェーデンに来た理由を問わず、スウェーデン国内に住所登録をしている外国生まれで外国籍を持つ人は全て「移民」ということです。
同時に、同じ政府の公式サイトによる見解として:
さまざまな定義:
移民という用語は明確ではなく、日常会話と公共の場で様々な方法で使用されるために、包括的な法的概念としての定義は存在しません。
代わりに、この概念は市民権、出生国、スウェーデンでの滞在期間、家族構成、母国語などの客観的な基準によって、様々な方法で定義できます。
また、主観的な基準、例えば人物の外見、またはその人がスウェーデン語を話すかどうか、なまりがあるかどうかなどの要素からその定義を考えることもできます。
したがって、当人自身の判断が、他の人の判断と乖離することも当然あります。
(スウェーデン政府公式サイト:文化省発行2000.01.01 更新2015.04.02)
このように…
スウェーデンでも、1950年代から1970年代にかけて「在留外国人」あるいは「外国人労働者」という言葉が通常的に使われてきましたが、政府の公式サイトにあるように、はっきりした定義づけがされないまま、時代の流れによって概念も変わってきたように思われます。
⒌ 在留外国人と移民という概念のイメージ
実は、この「在留外国人」とか「移民」という言葉には、案外微妙なニュアンスの違いがあるというか…
僕自身、ここスウェーデンに半世紀以上在住していますが、現在では、公的あるいは一般的には「移民」であるにもかかわらず、「移民ではなく、在留外国人である」という思いを長い間持っていました。
はっきりした観念でそう思っていたわけではなく、心の中で「自分は、スウェーデンに出稼ぎに来たわけではない」という意識があったと思います。
おそらく、ただ生活をするというよりも、何か「自分にとって意味のある生き方をしたい」という願望があったからかもしれません。
いずれにしても、「在留外国人」なのか「移民」なのかという言葉の使い方は、本来は同じ意味としても、本人にとっては自分のアイデンティティーに関わることでもあると、個人的には感じています。
これはあくまで個人的な体験ですが…。
僕がスウェーデンに来た60年代の終わりから70年代の半ばまでは、周りの友人たちも含めて、僕らは「移民」ではなく「スウェーデン在住の外国人」として受け入れられて、自分たちもそういう意識であったように思います。
当時は、若い世代がヨーロッパ中を放浪していた時期でもありましたし…。
しかし、70年代も終わる頃になってからはいわゆる「移民」という人たちが移住するようになり、社会に広まるにつれて「移民問題」が語られるようになって、80年代頃からは次第に「在留外国人」という言い方は少なくなり、やがて「移民」とまとめて呼ばれようになってきたように感じます。
僕の住んでいる住宅地はスウェーデンでも特に「移民」の密度が多いことで知られていますが、散歩などで顔見知りになる移民の隣人からは、僕が日本人と知ると「何で日本から来てここに住んでるの?」と聞かれることが往々にしてあります。
また、時折利用するタクシーの運転手も最近はそのほとんどが移民なのですが、客である僕が日本人と分かると、同じように「どうして日本とから移住したんですか?」と聞かれることが多いです。
「日本は先進国で、豊かで文化的で何も困らないはずなのに、なぜ?」というのがその問いには含まれているので、いつも「お金とか仕事がないとか国が嫌だからじゃないけど…」と、答えになっていない答えをするのが普通です。
つまり、最近特に増えている難民と呼ばれる人たちも含めて、いわゆる移民の中でも、移民とは「出稼ぎに来た人」あるいは「国に住めなくなったから来た人」というイメージが強いのではないかと思います。
おそらく、そのようなイメージは年代によっても異なるのでしょう。
今回は、「スウェーデンの移民とその政策」についてというより、その前提となる定義や言葉の解釈、また概念という内容になりましたが、単純に「移民」といっても国の状況が異なると中々理解しきれないこともありますので、次回からは時系列的な流れや国の政策や国民の反応などについても触れながら、スウェーデンの移民政策について何回かに分けて解説していきたいと思います。
出典:
Migrationsverket(移民局)https://www.migrationsverket.se/
Statistikmyndigheten(統計局)https://www.scb.se/
Migrationsinfo(スウェーデンの移民と社会統合に関する研究と統計団体)
https://www.migrationsinfo.se/