パーソナル・アシスタントとは
パーソナル・アシスタントというものは、元々、例えばビジネスの世界ではPersonal assistant (個人秘書PA)として訪米ではよく使われ、また日本でも外資系の企業ではよく見かけますが、一般的には秘書と同意語のようなものです。
もちろんスウェーデンでも、大きな企業や団体のトップや管理責任者には、そのようなものを持つ人もいます。ですから、スウェーデンで始まった機能障害を持つ人のための制度から生まれた概念ではありません。
しかし、ここで特に福祉の分野でパーソナル・アシスタントが特に注目を浴びるようになったのは、スウェーデンで1994年に施行されたLSS法に、機能障害を持つ人はパーソナル・アシスタントを得る権利が保障されると明記され、制度化されたことによるでしょう。
LSS法とパーソナル・アシスタント
LSS法(一定の機能障害を持つ人の支援とサービスに関する法)は、それまでの障害を持つ人を「援護」するという性格が強かった支援のあり方を、機能障害を持つ人の得ることができる「権利」を保証しそれを支援するという性格に変えるものでした。
また、それまで例えば知的障害者への法としての「新援護法」から、LSS法によって知的障害も含めた全ての機能障害を持つ人に適応することで支援の対象がずっと広くなり、特にこのパーソナル・アシスタント制度の導入は、身体障害や知的障害だけでなく、すべての機能障害を持つ人の生活に不可欠なものとして、それ以降の機能障害を持つ人の生活のあり方に大きな変化をもたらしました。
家族がアシスタント
アシスタント費用の支給と、個人による雇用
パーソナル・アシスタントの費用は、1週間20時間未満まではコミューン(地域自治体)から支給され、一般的にはコミューンが「ヘルパー」としてアシスタントをつけるのが普通です。
しかし週に20時間以上の場合は、費用は社会保険局から支給され、またアシスタントを自分で選択することができます。
週20時間というのは1日3時間のサポートですが、例えば重度の障害を持つ人は1日3時間では足らず、最重度の障害を持つ人は24時間ケアが必要という場合が少なくありません。
また、週20時間以上のケアが必要と判断されると、パーソナル・アシスタントの費用を社会保険局から自分が受け取り、それによって自分自身がアシスタントを雇用することが可能なため、重度の障害を持つ人の中には、自分の親や家族を雇い、それ以上のアシスタントが必要であれば公募やコミューンに依頼をして雇用するという人がたくさんいます。
パーソナル・アシスタントの役割
例えばグループホームの職員などは、利用する人の自立生活を支援することですから、利用者が出来ることは可能な限りその本人が自分でするように支援します。
極端な例としては、冷蔵庫にはわざと牛乳やバターを用意せず、利用者が自発的にそれに気づき自分から買い物をするように促すとか、あるいは掃除や洗濯も自分で出来るようにいろいろ試みる場合もあります。
しかし、パーソナル・アシスタントはあくまで個人の出来ないこと、苦手なことを手伝うというのがその趣旨なので、何をするかは機能障害を持つ人の要望によります。
パーソナル・アシスタントの資格
アシスタントになるための資格は、学歴や職種的な資格ではなく、支援を受ける機能障害を持つ個人のニーズによって決められます。
ある人のアシスタントは車の免許が必要かもしれないし、またある人の場合はパソコンに詳しいとか、あるいは調理の出来る人や場合によってはファッションに詳しい人かもしれません。
それら機能障害を持つ人のニーズに応えられる人が、その機能障害を持つ人のアシスタントとして相応しいということになります。
アシスタントで在宅生活
グループホームから在宅へ
重度の障害を持つ人は、例えば24時間ケアが必要な人は、アシスタント一人の労働時間が8時間とすれば、ローテーションや休日のことを考えると、一人につき6~7名のパーソナル・アシスタントが必要になります。
またケアのニーズの多い人は、アシスタントの支給を自分で受け、それによって自ら雇うことが可能になるため、自分で家族を雇い、それでも足りなければ一般からの公募などによりアシスタントを募集するなどして確保していきます。
パーソナル・アシスタントはLSS法によって公的に権利が保証されていますので、利用者にパーソナル・アシスタントをつけるのは、公的機関(この場合コミューン=市自治体、あるいは国の社会保険局)にその責任が義務付けられています。
このように自分のケアが確保されれば、グループホームなど職員のいる小規模な施設ではなく、パーソナル・アシスタントのケアを受けながら自分の住宅やアパートなどで暮らすことが可能になり、実際、そのような重度の障害を持つ人が在宅で暮らすという形態がどんどん増えています。
端的に言えば、このような傾向がもっと進めば、グループホームに住むのではなく、アシスタントの支援を受けながら自分自身の暮らしをする人が多数を占めるようになるでしょう。
自分たちの共同組合
障害のレベルを問わず、今まで支援を受けてきた人が自ら雇い主になり運営をしていくといううえでは、いろいろな困難を伴います。
給料の計算から税金の扱いだけでなく、アシスタントの教育やその他いろいろな仕事を自分で主導していかなければなりません。
そのため、パーソナル・アシスタントを持つ機能障害を持つ人が集まり、共同して運営にあたる「共同組合方式の団体」が次々と組織化されています。
以前から、例えば「インディペンデント・リビング」運動でもある主として身体障害を持つ人の「IL協会」や、最重度の重複障害を持つ人たちの協会「JAG」などが全国展開をして、会員である障害を持つ人自身によって運営されています。
そのような動きが、「グループホームから在宅へ」という流れを速めており、将来的には、スウェーデンの機能障害を持つ人のすべてが、障害のレベルに関わらず、自分の暮らしを自分で決めるという、自己決定に基づいた暮らしが出来るようになる可能性を持っています。