新型コロナ対策にみる、スウェーデンの高齢者ケアと医療!

医療と福祉

この原稿を書いている今日6月11日のストックホルムは、夜の9時を過ぎても児童公園では子供たちの声が響いて、日の入りは夜の10時、正に白夜の時期です。
スウェーデンでも最大のお祭りである夏至祭まではあと10日足らずで、そろそろ長い夏の休暇のシーズンも始まります。

さて、スウェーデンのコロナ情報によると、昨日のコロナウイルスによる死亡者数は14名。
1週間くらい前の死亡者数が1000人を超していたことから考えると、ようやく落ち着いてきたかなという感じです。

みなさんご存知のように、スウェーデンではロックダウンをしないという選択をしたことに加えて、人口比率から見る感染者数が多いこと、また特に高齢者が多い死亡率が世界的にも高いことで注目されているようです。

ところで、日本も含めて多くの国では感染者数が話題になり、またいろいろな対応への基準になっているようですが、スウェーデンでは、感染者数よりも死亡者数の方が重要視されます。

感染者の数は、どのように検査が行われているか、またどのくらいの検査が行われているかによって違いますし、それぞれの国によって検査のやり方も検査数も違うので、比較すること自体あまり意味がありません。

また、マスコミに見る評価では、スウェーデンの対応について賛否の声がある中で、「スウェーデンでは、集団免疫力を得るのが目的である」とか、「医療崩壊を防ぐためと、経済の低下を防ぐために、高齢者が犠牲になっている」などという論評もあるようですが、実際には、そのどちらも正しくありません。

事実や現状というものは、評価する人の見方や考え方の違いなどによって、中々伝わらないものであるということでしょう。

そんな中で、スウェーデンの現状について他の国と比較しながら、これからの第二波に向けた評価をしている記事を紹介します。

⚫︎ 6/8(月) 10:02配信、FRIDAY DIGITAL

「日本は第二波をスウェーデン式で乗り越えられるか…ひとつの考え方」より抜粋;
(医療ガバナンス研究所理事長 上昌広(かみ・まさひろ)氏)

途中省略:

『イギリスのイースト・アングリア大学の研究チームは、イギリスやドイツ、フランスを含む欧州30ヵ国を対象に、各国のコロナ対策の効果について分析した。

その結果、人々が集まるレストランやバー、レジャー施設、イベント会場の閉鎖は感染拡大の抑制に寄与したが、その一方で、これら以外の業種における営業停止は、感染拡大の抑制にほとんど影響がなかったとみられると考察している。
また、外出禁止の日数が増えるほど、感染者数は増加したという。

実際、ロックダウンを行わなかったスウェーデンの5月27日現在の致死率は11.9%。
対してロックダウンを行ったイギリスは14.1%、イタリアは13.9%だった。

◆感染者を減らすのか? 死者を減らすのか?

「毎日感染者の数ばかりクローズアップされていますが、大切なのは死亡者を減らすこと。

新型コロナウイルスで亡くなった方の8割以上は70歳以上の高齢者。
若い人は、持病がなければたいていの場合、感染しても大丈夫なんです。

外出自粛や休業要請をすれば、感染者は減らせるかもしれませんが、経済が立ち行かなくなる。
死者を減らすことを目的にするならば、高齢者や持病を持っている人を徹底的に守るようにすればいい。
それにはまず院内感染を減らすこと。

少しでも新型コロナウイルスが疑われるような人が来院したら、速やかにPCR 検査や抗原検査ができるようにすることです。」(上昌広(かみ・まさひろ)氏。以下同)

厚生労働省が発表した「年齢階級別陽性者数」や「年齢階級別死亡者数・重傷者数」を見ると、感染しているのは20代~50代が多いのに、60代以上は感染者数が50代以下より少ないにもかかわらず、死亡者数は多い。

この状況を見ると、高齢者に感染させないように気をつければ、若い世代はわりと自由に行動してもいいように思える。
それを実践したのがスウェーデンだ。

集団免疫を獲得するためにロックダウンしなかったと思われているが、スウェーデン政府は公式にはそうは言っていない。

医療崩壊を防ぎ、社会の機能を保つために50人以上の集会が禁止、飲食店での混雑禁止、スウェーデンへの入国禁止、高齢者施設への訪問禁止が法律で決められ、手洗いや在宅勤務、国内旅行の自粛、ソーシャルディスタンスを保つことなどが推奨された。
高校大学はオンライン授業になったが、保育園や小中学校は通常どおり、飲食店もオープンしている。

集団免疫獲得が目的ではないが、集団免疫獲得にもっとも近いやり方だと言われ、4月27日にはストックホルムで25%の人が抗体を獲得したと、感染対策のリーダーが発表している。
第二波がきても、抗体をもった人は感染しても軽症ですむ。

甘く見てはいけないが、経済活動を止めたことによる犠牲を考えれば、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、社会機能を維持するスウェーデン方式でいいのかもしれない。

スウェーデンで死者が増えたのは、高齢者施設でクラスターが発生したことが主な原因だ。

スウェーデンの人々も他の北欧3国に比べて死者が多いのは認識していたが、政府を信じて政策に従っていたという。

スウェーデンの疫学者アンデシュ・テグネル氏は「改善の余地がある」と述べたが、このように正確に現状をとらえ、包み隠すことなく発表する態度が、国民から信頼を得るのだろう。

PCR 検査が少なかったこと、院内感染が多かったことなど日本にも反省すべき点は多い。
日本モデルが本当に功を奏したのか、しっかり分析して、第二波に備えてほしいものだ。』

ところで、スウェーデンにおいては死亡者数が多いこと、またその8割が高齢者住宅に住む70歳以上の高齢者であるということで、スウェーデンの高齢者のケアに注目が集まるということも否定できません。

日本でも高齢者の死亡率が高いことについて、日本の厚労省ではこう発表しています。

「高齢者が多く入院している病院でもクラスターが発生してからでないとPCR 検査ができなかった。
それも高齢者の死亡者を増やした要因」
厚生労働省『新型コロナウイルス感染症の国内発生動向』(2020年5月27日18時時点)より抜粋

つまり、日本でもスウェーデンでも、高齢者の死亡者が多い理由は、クラスター感染が多いということによるということですが、ここで、日本とは違うスウェーデンの高齢者ケアについて考えてみたいと思います。

スウェーデンのアンダーシュ・テグネル氏が言う「改善の余地」の中には、当然高齢者の死亡率が多いことへの反省の意味が込められていますが、

「なぜ、高齢者住宅での死亡率が高いか?」という問いについては、コロナ対策以前の構造的な「リソース不足」を考えなくてはなりません。

この場合のリソース不足とは、財政的な問題と人員不足です。

一般的に、スウェーデンでも病院や介護ケアの介護員のステイタスは、「仕事は厳しい上に、給料が安い」ということで低く、介護スタッフの多くは移民や外国出身の職員が多いことで知られています。

海外からの移民は、当然ながら生活習慣も違うので、スウェーデン人のように成人すると家族が別々に生活するのではなく、祖父母、親子の3世代が一緒に生活する家庭も多く、また同国人同士が密接に付き合うということが普通に行われています。

つまり、コロナウイルスに感染する可能性は一般のスウェーデン人家庭に比べて多いことが一つと、加えて、病院や施設の介護員には非常勤の職員が多く、複数の病院や施設で勤務する場合が多いことが挙げられます。

高齢者住宅においてクラスターが発生する要因の中には、このように介護スタッフの現状が影響していることも挙げられるでしょうが…

しかし一般的には、このような指摘をすると、ともすれば「反移民的」という批判を受けることにもなりかねないので、公には議論もされません。

これらは財政上の問題でもあり、また移民政策の問題も含んでいるので、単に医療的な新型コロナ感染の対応だけでは解決できない問題です。

いろいろ複雑な問題も抱えるスウェーデンですが、医療現場の現状はどうでしょうか。

実際にスウェーデンの医療に従事している医師のインタビュー記事があるので、ここで紹介したいと思います。

「医療維新」より:

「日本人医師が見たスウェーデンの新型コロナ対策 -カロリンスカ大学病院泌尿器外科・宮川絢子氏に聞く◆Vol.1」
2020年6月10日 聞き手・まとめ:高橋直純(m3.com編集部)より抜粋:

――スウェーデンの医療制度はどのようなものでしょうか。

医療水準は日本と同じ程度だと思います。

医療機関はほとんど公立で、救急以外は「家庭医」を通さないと専門医にはかかることができない仕組みです。

医療費負担では、全ての人に支払い限度額があり、外来診療では1年間の支払い最高額は1150クローネ(約1万3000円)、外来処方薬は2350クローネ(約2万7000円)。
入院では日額100クローネ(約1100円)の負担です。

新しい技術に対しては、日本よりも保険収載が早く、貧しい人でも最新医療を受けることができます。

私の専門の泌尿器の分野では、膀胱全摘のロボット手術は、日本ではつい最近保険収載されましたが、スウェーデンでは10年以上前から行われていました。
ロボット手術については全体的にスウェーデンが進んでいますね。

一方で、エビデンスのない治療はされないので、家族や本人が望むからという理由で末期がんの患者さんに抗がん剤治療をするようなことは絶対ありません。

通常から、予後の悪い患者さんは年齢にかかわらず、ICU治療を受けることはできません。
今回のパンデミックでは、80歳以上や、70歳代でも腎不全などのリスクファクターがあるとICU適応ではないと判断をされます。

私の職場であるカロリンスカ大学病院では、患者さんが入院してから24時間以内に、ICU入室の適応があるかどうかを決めて書面化しなければならないという内規が用意されました。

社会庁(※1)の規定ではICUに空床がある場合にはできる限り患者さんを受け入れることになっていますが、今回のパンデミックに伴い、ICUは満床でなくても入室基準は厳しくなっています。

ほとんどの場合はその基準で正しいのだと思いますが、医師としては辛いものがあります。

今回のパンデミックでICUに入った人の年齢分布では、90歳以上で1人、80歳代でも100人程度でした。
ICU治療の適応とならない高齢者の中にも、自力で回復する人もいますが、不幸な転帰を取る場合は鎮静剤処置だけです。

――スウェーデンの新型コロナ対策を振り返っていただけますでしょうか。

3月上旬の時点は感染者も数人でしたが、2月頃からICUのベッドを増やす計画が立てられていました。

カロリンスカ大学病院はスウェーデン最大の病院ですが、術後観察室をICUに改築するなどして、それ以前の約5倍の200床程度まで増床されています。
ECMO用の病床も、通常は3床ですが、4倍程度に増床されました。

また、一部の通常病棟を新型コロナ専用病棟にし、比較的軽症の患者用の入院ベッドも確保されました。
それに伴って通常病棟のベッド数が減少したため、通常診療や通常手術は大幅に削減されました。

ストックホルム市内には5カ所ほどの大きな病院がありますが、新型コロナ患者は大学病院を中心に担当することになり、それ以外の疾患は新型コロナ患者を扱わない病院へ移動させたりする対応が取られました。

例えば、乳がんの手術は全てストックホルム市内にある、新型コロナ感染者を扱わない私立病院へ委嘱しました。

また、日本で言うところの幕張メッセのような大規模施設で、600床の野戦病院を造りましたが、そこまで患者が増えなかったので結局、使われなかったです。

新型コロナ感染者の治療にあたる医師については、希望者や各科の若手を中心に、事前に教育を行った上で配置換えを行いました。
医師以外でも、医学生含め全国から5000人ほどボランティアを集めて、周辺サポートができるように教育していました。
今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。

航空会社のキャビンアテンダントは休職になりましたが、スカンジナビア航空では短期間で准看護師のような専門職になる教育をするといったことも行われ、国を挙げて、しっかりと準備をしていました。

――いつ頃から感染者が増えたのでしょうか。

スウェーデンにはスポーツ休暇週間と呼ばれる地域ごとの1週間の学校休暇期間があり、ストックホルムではそれが3月上旬でした。
例年、今回感染が広まった北イタリアにスキーに行く人が多いです。

同僚の何人かは感染を恐れて旅行を中止にしていましたが、政府からは移動制限を求めることはなく、結果として、数万人が北イタリアを訪れ、休暇明けに感染者が急激に増えてしまいました。
そのことにより、感染経路の追跡調査を早期に諦めてしまい、PCR検査は入院が必要な人だけにすることになりました。

患者が最も多かった4月中旬では、カロリンスカ大学病院には約450人の新型コロナ患者が入院していて、約3分の1がICUに入っていました。
地方でICUのキャパシティーがないところでは、20人単位で首都に患者を移送させるということも行われました。
通常診療では大きな制限がありましたが、それでも通常病棟、ICU共に満床になることはなく、「医療崩壊」ではなかったと言えます。

――日常生活はいかがですか。

3月17日に高校・大学・成人学校(※2)は閉鎖してオンライン授業に切り替えるよう要請がありましたが、保育園・小学校・中学校はまだ平常どおり授業が行われてきました。
法律で禁止されているのは「高齢者施設の訪問」と「50人以上の集会」だけで、「屋内外で他の人と距離を空けること」「パーティーや冠婚葬祭など人を多く集める機会を作らないこと」「スポーツ施設では更衣室で着替えないこと」「不要不急の旅行は避けること」は勧告にとどまっています。

デパートやレストランは営業を続けていましたが、リモートワークが進み、4月のうちは、街の人出は半分ぐらいだった印象です。

70歳以上の方は自宅隔離するという方針でしたが、70歳以下でリスクファクターのない人はある程度、普通の生活を行っていました。

ソーシャルディスタンシングについてはスーパーでも、客同士の距離を取るように線が引かれるなど意識はされていました。
公共バスは通常は前から乗って料金を払うのですが、運転手への感染を避けるために全部無料にして後ろから乗るようになりました。

市内ではマスクをしている人は圧倒的に少ないですね。
医療現場でも、医療従事者が日常的にマスクをするということはなかったです

基本は個室なので、感染患者さんがいる部屋に入る時はPPEを使いますが、部屋の外でずっとしているということはなかったです。

新型コロナ対策で、世界的にもユニークな対応をしているスウェーデン。
その成果の評価をするのにはまだ早いでしょうが、夏至祭を控えて夏の休暇の時期にも入ったスウェーデンの現状を、これからも見逃せません。

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