スウェーデン発祥のマッサージ
スウェーデンでは1960年代に、未熟児のケアの中で、未熟児に手で触れることによる発育が顕著であったことに着目したマッサージの手法が開発され、その後障がい児のケア、またがん患者の終末期における緩和ケアや高齢者ケア、認知症ケアでの実践へとその領域が広がっていきました。
このマッサージは、スウェーデンでは「タクティール・マッサージ」と呼ばれていますが、単に「タクティール」あるいは「タクティール・タッチ」また「タクティール刺激」など、いろいろな呼び方がされています。
また日本では、「タクティール」の他に「ハプティック」とも呼ばれることがありますが、ここでは「スウェーデンハンドセラピー」としてご紹介していきます。
「触れる」マッサージと、その効果
スウェーデンハンドセラピーは、筋肉や深い組織を揉みほぐすのでなく、皮膚を撫でるように柔らかく触れる「ハンドマッサージ」です。
触覚神経を刺激することで「快適ホルモン」とも言われるオキシトシンの分泌が促され、それにより穏やかさと安心感をもたらし、施術する側と受ける側との間に、親密感と信頼感が生みだされます。
また、スウェーデンハンドセラピーは「痛みの緩和」に貢献することも実証されています。
そのためスウェーデンでは早くから、がんや認知症などの緩和ケアの一環として、痛みの緩和に「代替医療行為」として使われて来ました。
この他にも特徴付けられる効果として、硬直した筋肉の緩和があります。
手が硬直している場合に、今まで開くことが難しかった手がマッサージの途中から硬直が緩み、終わる頃には手が柔らかくなり開くのが容易になることが往々にしてあります。
さらに、睡眠状況の改善や便秘の改善といった身体への働きかけだけでなく、施術によってもたらされる穏やかさや安心感は精神的な症状にも働きかけ、「落ち着き」が得られます。
その他にも触覚神経が刺激を受けることで、自分の身体領域を確認・認識・再認識することにも繋がります。
「手当て」と、「ふれあい」のコミュニケーション
私たちは、昔から「手当」という言葉を使って来ました。
「お医者さんから手当を受ける」というように、お医者さんの手で触れられることで、身体が癒されるということ、そしてお医者さんの立場では、「手で触れること」で身体の様子や反応で検診が出来、治療にもなるというわけです。
「手当」と言えば、
昔から私たちは、誰から教わるまでもなく、体のどこかに痛みがあると、息を吹きかけたり手で摩ったりします。
幼児が転んだりして膝や手を打とうものなら、そこにフッと息を吹きかけ「さぁ、もう大丈夫!」などと言ったりします。
しかし、これは「ただのおまじない」でも何でもなく、「撫でる」ことは実際に痛みの緩和にも繋がるものです。
このように、「触れる」ということは、癒しにつながりますが、それだけではありません。
ハンドセラピーは、受け取る側と行う側との間に、親密感と信頼感を生みだします。
「ふれあう」ことで生まれる、コミュニケーションです。
看護や介護ケア職員にとっても、
ケアの現場で、利用者や患者さんが、この「手当て」や「ふれあい」によって「心地よいケア」を感じることで、利用者や患者さんとの間の貴重な「架け橋」となることができます。
このため、利用者にとっても職員にとっても、一つの有効な「コミュニケーションの手段」として、現場での環境づくりやQOLの向上に大いに貢献しています。
QOLの向上
スウェーデンハンドマッサージは、特に認知症や障がいを持つ人など周りとのコミュニケーションに困難を抱える人には、「自分が慈しみを受けている」、「今、人に認められている」という意味合いを感じることで自意識の向上に繋がり、その結果日常的な生活のQOLの向上に繋がります。
訪問看護や介護などの場合、
ハンドマッサージは利用者や患者さんに喜ばれるため、看護や介護の場合の一つのスキルとして、良好な職場環境の向上にも役立ちます。
スウェーデンでは、幼稚園児同士が午前中にお互いに背中のマッサージをすることで児童同士の関係が穏やかになり、昼寝もスムーズにいくなどの効果も挙げられ、さらに小・中学校など学校教育の中でも、生徒同士の関係改善や集中力の向上という意味で取り上げられています。
さらに、ストレスの多い医療や福祉分野の現場では、職員同士がハンドセラピーを行い、「ケアをする人のケア」ということでも効果を示しているなど、様々な現場で取り入れるようになりました。
日本ではまた、親と子どもの間や高齢な家族との繋がりの中で、新しい形の関係作りやコミュニケーションを促す手段として期待されています。
スウェーデンハンドセラピーの実践
スウェーデンハンドセラピーは、手と足、背中のマッサージで構成されています。
手と足のマッサージでは一般的にオイルを使いますが、背中などは服の上からもできます。
マッサージによる体内でのオキシトシンの分泌は約10分でマックスに到達しますので、マッサージは背中の場合約10分間、また背中も約10分間行います。
マッサージの場所は、床やベッドの上あるいは車椅子上など、状況に応じて対応出来ます。
スウェーデンハンドマッサージでは「包み込む」という概念がよく使われ、そのため一般的にはタオルを使用します。
オイルとタオルはこの「包み込む」感覚のために大切な備品ですが、一番大切なのは「手で触れる感触」と、受ける側の「相手の感触」を感知する「心遣い」と言えるでしょう。
スウェーデンハンドマッサージの手法の習得
平成22年6月に、スウェーデンハンドセラピーの普及と教育の運営を担うために、「一般社団法人 スウェーデンハンドセラピー協会」が発足しました。
スウェーデンハンドセラピーの手法は、協会認定のインストラクターによる講座を受けることで習得できます。
そのため協会はスウェーデンハンドセラピーの講座(2日間)を開催し、講座終了後には修了証が授与され、また多くのインストラクターが認定されました。
講座は全国的に開催され、大勢の人がその手法を習得して、病院や訪問看護ステーションなどの医療や、高齢者や障害者の施設、また児童ケアの分野で日常的にハンドセラピーの施術を行っています。
その後、「一般社団法人スウェーデンハンドセラピー協会」は発展的に解消しましたが、セラピーの継続を願う有志が集まり、現在は任意団体である「スウェーデンハンドセラピー協会」として、その発足に向けて準備中です。
参照:スウェーデンハンドセラピー協会
https://sweden-handtherapy.com/
協会はスウェーデンハンドセラピーの講座(2日間)を開催し、講座終了後には修了証が授与され、また多くのインストラクターが認定されました。
「ふれあい」と「手当て」、そして融合!
私たち日本人は、いろいろな意味で人や社会での「ふれあい」を大切に、また人とのケアの場面では「手当をすること」を大切にしています。
スウェーデンハンドセラピーは、正にこの「ふれあい」と「手当」を融合するもので、また、スウェーデン生まれのこのケアは、その精神を実現している手法です。
この「ふれあい」と「手当」を大切にする日本で、多くの人がスウェーデンハンドセラピーの手法を習得して、福祉の現場や地域での生活の中で広がっていってほしいものです。