知的障害と、その概念!

北欧情報

監修:

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知的障害者とは…

いわゆる「知的障害者」といわれる人は、どのような人のことをいうのでしょう?

現在、日本において知的障害のある方を支える法律の中では、「知的障害者福祉法」と「障害者総合福祉法」の2つの法律があり、知的障害のある方の社会福祉サービスに関する制度について規定しています。

知的障害者福祉法における知的障害者

知的障害者福祉法は、昭和35年(1960年)に公布されました。
知的障害のある方の自立と社会経済活動への参加を促進するため、必要な援助や保護を行うことを定めた法律です。

また、この中にあった「精神薄弱」という言葉の定義や意味の問題もあり、平成11年(1999年)に制定された「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」を受け、「知的障害」という名称に変更され、現在に至っています。

障害者総合支援法

知的障害者に限らず、様々な障害を持つ方への支援に関して今までいろいろな法律がありましたが、これまでの「障害者自立支援法」の問題点を解決し発展させたものが平成25年4月1日(2013年)に施行された「障害者総合支援法」です。

障害者総合支援法は、それまでの障害者自立支援法の目的であった「障害のある方の自立」というものから、「障害のある方の基本的人権を尊重し、その尊厳を保つ」という主旨に変更されたものです。

この法律の基本的な考え方は、「障害の有無にかかわらず、社会参画が実現できること」が理念として明確にされました。

そして、障害者総合支援法上の障害者の範囲は、「知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち18歳以上の方」というように定められています。

日本では、知的障害の定義がない?

しかし、「知的障害者福祉法」の中では、どんな方が「知的障害者」あるいは「知的障害」なのかという定義はなされていません。
そこで、どんな方を「知的障害のある方である」としているのかというと…

「療育手帳の交付にあたって、その交付対象とするか判定した結果で、知的障害とするか決めている」という形になっています。

判定の基準

その「療育手の交付対象となる方」というのは、「精神遅滞≒知的障害」の具体的な判定には、以下の3つの視点があります。

1)  知的機能の全般で、同年齢の人と比べて遅れや成長の停滞が明らかである方。
知能検査でIQ70~75以下程度に相当する方。
2)  意思伝達、自己管理、家庭生活、社会・対人技能、地域社会資源の利用、自律性、
学習能力、仕事、余暇、健康、安全などの面での「適応機能」に明らかな制限が
ある方で支援が必要となっている方。
3) 成長期(概ね18歳未満)の時点から見られている方。

つまり、日本には「知的障害」についての定義はなく、その判定としてIQ(知能指数)の検査によって、IQ70〜75以下に相当する方が知的障害者と判断されるということになります。

またその分類は、その方の知能の発達段階において、「軽度=8〜11歳程度、IQ51〜70」、「中度=5〜8歳程度、IQ36〜50」、「重度=3〜5.5歳程度、IQ 21〜35」、「最重度=3歳程度以下、IQ20以下」とされています。

ところが、そうすると例えば軽度の知的障害者とされるIQ70と、そうではない健常者のIQ71の方とは「何が違うのか?」ということには専門家も答えがありませんし、また、IQ50程度の方は、そもそも知能検査においての質問を理解しているかという疑問もあります。

つまり、知能検査で明快に分類できないにもかかわらず知的障害と判断し、精神年齢(これも明確ではありませんが…)で知的障害者の分類をしているわけです。

スウェーデンの知的障害の概念


まず、スウェーデンでは知能検査(IQテスト)というものは、昔はありましたが、今は原則として行われていません。
医科学な根拠が希薄だからです。

また、「精神、あるいは精神的」という場合、
① 理解力、考える、記憶(intelligence = 知能、理解)
② 感情(emotion = 情緒)
③ 決定と行動(motivation = 動機づけ)
④ 自分に対する判断(identity = 自己認識)

などについて言われるものですが、知的障害というものは精神的な発達に遅延があるとしても、それだけでは知的障害についての説明づけが十分ではありません。

そこで、スウェーデンでは知的障害というものを、

① 知的障害の唯一の障害は、intelligence(知能力、理解力)である。
② 機能の低下が長期的であり、日常生活に何かの援助・支援を必要とする。
③ 機能の低下が、生まれつきあるいは早期の発育時に生じている。

というように限定して考え、「知的障害とは、生まれつきあるいは発育時に生じた知能に関する機能の低下が顕著で、しかも長期的なものである」と定義づけられています。

知的障害を持つといわれる方の中には、身体障害や自閉症、情緒障害や他の発達障害、あるいは精神障害などの機能障害を持ち合わせている方も少なくありませんが、その場合は他の障害を重複して持ち合わせているということです。

また、「知的」ということは、

① 五感による感覚を知覚(外部の物事を判別し、意識するはたらき)としてまとめること。
② 考えや行動を、知覚によりそれぞれの目的に導くこと。
③ 考えを言語化し、人との関係を発達させること。
などが可能になるということです。

この知能を測定する場合に、日本ではIQ(知能指数)を使っているわけですが、この方法では、例えば知能指数55以下では測定そのものに無理があるし、また多くの知的障害を持つ方は重複障害を持ち合わせているために、測定の結果は知能の複雑な機能を反映しません。
さらに、いわゆる精神年齢という測定方法も、その方の生活体験による知識を考えると一致しないことが少なくありません。

そこで、スウェーデンではこれらの方法による測定は現在行われず、「時間、空間、質、量、理由(結果)」という知能の概念を基にいろいろな観点からテストを行い、A=重度、B=中度、C=軽度という、グンナル・シュレーン博士による段階づけを行なっています。

しかし、この測定によっても、ある特定の人をはっきりと段階づけることには、場合によって無理があります。
また、一般的にはAレベルの下に「最重度」という段階も、現在では使われています。

グンナル・シュレーン博士による知的障害の段階

A−レベル(重度)
・感情や感覚は、誰とも同様である。
・「今」と「ここ(場所)」という段階での現状認識しかできないが、これから何が起こるか
ということは、直感的に予測できる。
・感覚や体験は、比べることによって認識をする。
・見えるところにいる人や見えるものなどを覚えていて、目に入ると事柄を思い出す。
・「快適なこと」と分かっていることには、自分から行動できる。
・直感的な思考の連結によって行動を起こす。
・シグナルは理解し出すことができるが、コミュニケーションとしての言葉は持たない。
・写真や鏡に映る自分も含め、絵という概念が理解できない。

B−レベル(中度)
・絵というものを理解し、言葉を覚える。
・周りの環境を、全体として理解する。
・時間の概念について、いくつかの出来事を想定できるようになる。
・明日という概念がわかるようになり、1週間というものについての概念もある程度理解する。
・体験によって、洋服・家具・台所用品など、種類別で区別できる。
・「同じ数」ということの意味が分かり、2・3・4という数の意味はできるが、計算はできない。
・まだ、「具体的な事柄」に依存して、考えの中で「変更した結果」を理解するのが難しい。

C−レベル(軽度)
・読む・書くなどの能力があり、簡単な計算を行うことができる。
・時間・空間の概念が広がり、未来というもの、まだ訪れてない場所があることを理解する。
・見たことがない人や物があるというように、種別などについての理解が深まる。
・変更があるということを理解して、新しい状況に対応できるようになる。
・複雑な要因があるものに対しての対応が困難であっても、物事を違う視点から見ることができたり、
他人の視点から物事を見ることができる。
・異なる解決方法を選択して考えたり、抽象的な状況に対しての対応は困難である。
(例えば、クレジットカードなどの抽象的な概念を理解することは難しい。)

知的障害を理解することの大切さ

知的障害というものを、単に「IQが低い」という視点で概念づけると、知的な障害を持つ人は「ものがわからない人」、「頭の悪い人」などという先入観で判断してしまう結果にもつながります。

いわゆる「健常者」と言われる人たちでも、人によれば「時間」の概念で「今」しか考えられない人もいれば、中には「宇宙的な時空」を理解している人もいるなどいろいろです。
「空間」の概念でも、例えば国内の地域についてはその距離感を理解しても、世界の地域との距離的なものは全く分からなかったり、ましてや宇宙での距離感となると、「何万光年」なるものを理解できる人や全く分からない人など、人それぞれ違います。

その中で、重度の知的障害を持つ人は「今」・「ここ」という概念は分かるとしても、過去や未来というもの、見えないものや「遠い」という概念が分からないということです。

しかし、感情や感覚は誰とも同じですから、知的障害を持つ方への対応も、それらを理解して、私たち自身を同じように「同じ目線」で接することが大事です。